第一回の研究会で討議、確認された内容(キーメセージ)
(1) 「ロコモティブシンドローム」という名称が必要なわけ
運動器の加齢に伴う障害を予防するには、病名がつくほど状態が悪化しているわけではないが、すでに危険が高まっている状態を発見し、対策をとることが重要である。そのためには概念としての運動器障害のハイリスク状態を表す言葉が必要で、病名でもなく「運動不足」のように危機感を感じさせない言葉でもない名称でなければならない。それが、「ロコモティグシンドローム」である。「ロコモ」と略せば呼びやすいし、暗くて悪い感じもしないでしょ。
(2) 従来からあるような日本語の別称は当面つけない
新しい概念には新しい名称が似合う。「ロコモティブシンドローム」は運動器不安定症などの既存の言葉では表せない状態、準備状態をも包括する。今後の研究が現在の常識を変える別称を与える可能性もあり、現時点ではその可能性を既存の名称で限定すべきでない。
(3) ロコモティブシンドロームの主な構成要因は、骨粗鬆症、下肢の変形性関節症や関節炎、脊椎の変形や変性などによる神経障害の最も頻度の高い3つと考えてよりだろう。
(4) 骨粗鬆症は上記の2つの疾患に比して、評価法、予後予測(骨折の発生確率)、予防の研究が進んでいる。最近、骨折の発生を予測するFRAXというツールの日本版も公表された。他の2つの疾患でも定量化された評価法、予後予測、予防に関する研究が必要である。
(5) メタボシックシンドロームとの類似点
メタボリックシンドロームは主な構成要因である高血圧、高脂血症、糖尿病のそれぞれが低リスクでも、全体として高リスクを呈することが知られている。
ロコモティブシンドロームでも同様のことが起こっている可能性がある。臨床の現場の感覚では、骨粗鬆症、変形性関節症、脊椎症性の脊髄・馬尾・神経根障害の3つが特に高齢者では相互に関連して移動運動を障害していることは間違いなさそうである。
これら3つの移動運動障害への関与の度合い、それぞれの疾患の他の疾患に対する影響にちては研究の余地がある。
(6) メタボリックシンドロームとの相違点
メタボリックシンドロームでは、動脈硬化を通して心臓や脳血管の病気が発症するが、ロコモティブシンドロームでは動脈硬化にあたる単一の病態はない。メタボシックシンドロームには、腹囲を測るという簡便な自己検査法があるが、ロコモティブシンドロームではまだそのようなものはない。ロコモティブシンドロームでも腹囲計測に相当する簡便な自己検査法を早急に調査研究して、提案することが重要である。それは、移動能力を連続量として、簡便に測れるものである必要がある。本年より、自治医科大学の星野雄一整形外科教授をリーダーとして研究が始まった。片脚起立可能時間は簡便な自己検査法の有力な候補である。
(7) 介入法
ロコモティブシンドロームでも病気を発祥していない状態で、ハイリスクの状態から脱出するための運動療法の処方などの介入法の研究が早急に必要である。
(8) ロコモティブシンドロームの運動器疾患の診療、研究における意義
医療、医学全体で専門化が進み、運動器疾患の診療、研究においてもその傾向が強い。ともすれば、専門家のみが診療にあたるべきだとの風潮さえある。特に高齢者の運動器疾患においては、運動器全体として総合的に考えることが重要で、その意味でロコモティブシンドロームは運動器疾患の診療、研究における再総合化を象徴する言葉になりうる。
(9) メカニカルストレス
ロコモティブシンドロームをきたす病態に共通するのは、適正なメカニカルストレスが働いていないということだろう。運動器に属する器官、組織、細胞はすべてメカニカルストレスの影響を受けている。重力というメカニカルストレスを受けない宇宙飛行士の骨が骨粗鬆症になることはよく知られている。
骨代謝内科医である岡崎委員、竹田委員からは最新の骨粗鬆症研究について説明があり、他の疾患でも骨粗鬆症研究に対応する成果をあげるべきだという思いを脊椎外科医の税田委員、膝の外科医の福井委員など整形外科の委員が強く感じたのが上記 (4) である。
ロコモティブシンドロームと運動器不安定症や廃用症候群など、リハビリテーションの分野でなじみの深い言葉との関連について、リハビリテーション医である芳賀委員から質問があり、その後起こった討議の結果が上記 (2) である。
外傷外科医として救急救命センターで活躍する井口委員、開業医として地域医療に携わる下赤委員からも高齢者医療の現状が報告された。
リウマチ医の仲村委員が、臨床現場においては、高齢のリウマチ患者さんが関節炎に加えて腰椎の障害が問題となっていると発言し、大江の提示した症例報告とともにロコモティブシンドロームのメタボリックシンドロームとの類似点を示した上記 (5) を裏付けた。
上記 (8) は、委員長の大江がいつも救急から介護まで診ている現場で感じていることである。手の外科の専門家として、切断指の再接着などの”専門的医療”をすればするほど心に溜まるわだかまりである。
最後に顧問の中村教授がロコモティブシンドロームの学問的で哲学的な意味をメカニカルストレスという整形外科医以外には聞きなれない言葉で説明されたのが上記 (9) であるが、メカニカルストレスについての詳細は、今後のお知らせに乞うご期待である。
以上、文責 大江
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