ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)は、運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態をいう。ロコモティブは運動器(locomotive organs)の意味である。
●「運動器の健康」には適切なメカニカルストレスが必須である
第81回日整会学術総会で宇宙飛行士の毛利衛氏は、「人類は宇宙生命と成りえるか」と題して、興味深い招待講演をされた。宇宙では体を支える必要がないため筋肉や骨は非常に脆弱となる。宇宙飛行士はこれを防ぐため、エルゴメーターやゴムバンドを使って日課として運動をするが、十分でなく、長期宇宙滞在者には帰還後通常の生活に戻るためのリハビリテーションプログラムが用意されているとのことである。そして「宇宙という無重力状態では、今の体の状態を維持できない」と感想を述べられた。これは、運動器の健康には適切なメカニカルストレスが必須であることを示す好例である。
●「運動器の障害」は要介護の原因となる
多くの人々は高齢になることに不安を持っている。「わが国の一般生活者の高齢社会に対する意識調査」(荒井由美子ら、2005)によると、83%の人が高齢になることに不安を感じている。その理由は「自分が寝たきり、痴呆になって要介護となる」(78%)、「自分が病気になる」(72%)、「収入」(68%)、「配偶者の病気や介護」(54%)である。寝たきり、病気、要介護に対する不安がきわめて大きい。
要介護になる理由は脳卒中(29%)、老衰(15%)、認知症(13%)、骨折・転倒(11%)、関節疾患(9%)、要支援は老衰(22%)、関節疾患(18%)、脳卒中(12%)、骨折・転倒(11%)、心臓病(7%)で(平成16年度厚労省国民生活基礎調査)、運動器疾患は要介護の重要な理由になっている。しかし、一般生活者が高齢になったときに患う病気として心配するのは、がん(77%)、認知症(70%)、脳血管障害(67%)、心臓疾患(57%)の順で(荒井由美子ら、2005)、運動器疾患の認識度はさほど高くないことがわかる。要介護になることと運動器の健康とが十分に結びついていない。
●運動不足は「運動器の健康」に有害で、その先に要介護の危険がある
禁煙は難しいといわれている。製薬会社で禁煙の広報を担当している喜多英人氏によれば、禁煙をすすめるコツの一つは「喫煙は有害だというイメージを持ってもらうこと」だという(朝日新聞、平成20年5月20日、コラム「あなたの安心」)。そして非喫煙に比べ喉頭がん32.5倍、肺がん45倍のリスクがあるというデータが添えられている。いま社会で話題となっている“メタボ”にも「肥満は有害である」とのメッセージが込められており、その行き着く先に「脳卒中」「心筋梗塞」の危険がある。
運動器の重要性をアピールする場合、「身体を適切に動かしていないことは単に運動不足という習慣の問題ではなく、運動器の健康に有害であり」、「その障害の先には要介護の危険がある」というコンセプトを明瞭に述べていく必要がある。運動器はサイレントオルガンで、障害がすすむまで症状が現れない。新たなコンセプトを述べるには新たな言葉が必要であり、広報のためには覚えやすい言葉であることが大切である。
平成20年度から、関係者の努力によって厚労省の運動器疾患対策事業が始まった。日整会ではこれらの事業を通じて、一般の人が運動器の健康を自己点検できる簡便なテスト法や予防法を開発、検証し、高齢者のみならず働き盛りの時期から、予防に取り組むことによって前向きに生活できるよう支援していきたい。
出典:日本整形外科学会 広報室ニュース 第74号
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